漢文で重要な句法の一つである使役ですが、日本語、英語に比べて、非常に簡潔な文構造をしています。訓読がややこしくなるのは、日本語の使役文の構造が複雑なためといえます。
英語の使役文の構造
使役動詞makeの場合、学校文法では、
make + 目的語 + 原型不定詞
という構造で説明されます。
使役文の目的語と原型不定詞は主述関係にあるので、「目的語 + 原型不定詞」は、事実上、従属節とみなすことができます。例えば、

では、”His mother made”が主節で、”him clean his room”が事実上の従属節となります。解釈の仕方としては、”he clean his room”という事象を”His mother made”となります。
この使役文の特徴として、以下の点が挙がられます。
・従属節の主語が目的格である:him
・従属節の動詞が原型不定詞である:clean
主語でありながら目的格で表記されることは、奇妙に感じられるのではないかと思います。
漢文の使役文の構造
漢文の使役文は、文法的には英語とまったく同じ構造だと考えられますが、格や時制が現れないので、より簡潔に感じられる思います。
例えば

では、「天帝使」が主節で、「我長百獣」が事実上の従属節となります。「天帝が、『私が百獣の王になる』ということを実行させた」と解釈できます。
文法的には、「我長百獣」の「我」は目的格で「長」は不定詞だと考えられます。しかし、漢文では、格による表記の変化は無く、時制による動詞の変化もありません。そのため、「我長百獣」は、通常の節と何も変わりません。英語における、格標示や動詞の時制の難しさが無いということです。
日本語の使役文の構造
日本語の使役文も、原理的には英語や漢文と同じ構成だと考えられますが、とてもわかりにくい形式になっています。
例えば「母親は息子に荷物を運ばせた。」という文の意味上の構造は、

「母親は ~ せた。」が主節であり、「息子に荷物を運ば」が従属節はとなります。使役が助動詞「せ」で表されるため、一般的な節を形成することはできません。
形式的な文の構造は、

「運ばせた」という複合的な述語を合成して、「母親は」を主語とする単文となります。日本語の使役は、意味上の構造と形式的な文の構造が異なるため、非常に複雑なものになっています。
まとめ
使役文の基本的な構造は、「使役動詞+従属節」と考えることができますが、表記の仕方は、漢文、英語、日本語で大きく異なります。漢文の使役文は非常にわかりやすく、複雑なのは日本語の使役文だと言えるでしょう。
