漢文句法で特に悩ましいのは「何如(いかん)」と「如何(いかんセン)」です。「如」の代わりに「奈」「若」の字も使われます。原則的には、「何如」は状態を問い、「如何」は方法を問うと説明されています。しかし、「如何」で状態を問う例も存在するので、とまどってしまいます。
このような事象は、動詞「如」の特性によって説明できると考えられます。古典中国語における疑問詞移動の文献「A. Wang (2021) Wh-phrases and wh-in-situ in Late Archaic Chinese. Qulso 7:pp. 155-179. doi: http://dx.doi.org/10.13128/QUSO-2421-7220-12008」を参考に、状態を問う場合と方法を問う場合の違いを検討します。見やすくするために、以下では、状態を問う場合には「如」を使い、方法を問う場合には「奈」を使うことにします。
例)「何如」

例)「奈何」

漢文句法での説明
漢文句法では、以下のような説明があります。
[状態を問う場合]
・原則の語順は「何如」
・「如何」の例もある
・読み方:「いかん」
[方法を問う場合]
・語順は「奈何」
・目的語をとるときは「奈 – 目的語 – 何」の順
・読み方:「いかんセン」
状態を問う場合には、「何如」と「如何」の二つの語順があり、方法を問う場合には「奈何」の語順のみとなります。「状態を問うか方法を問うか」が、語順だけで決定されるものではないことがわかります。
「何如」と「奈何」の文構造
状態を問う「何如」と、方法を問う「奈何」との違いは、動詞がとる目的語の数の違いにあります。状態を問う「如」は目的語を一つとる動詞で、「のようである」という意味です。方法を問う「奈」は目的語を二つとる動詞で、「処置する、どうにかする」という意味です。
状態を問う「何如」「如何」

「何如」では、「如」が動詞(V)で、「何」は目的語です。目的語の疑問詞は、原則として動詞の前へ移動します。これは、英語の疑問詞の移動と同様の事象です。「何」の移動の結果、「何如」となります。直訳すると、「何に似ているのか(like what?)」となります。
「如何」は、「何」が移動していない場合の表記です。疑問詞の移動が定着していなかった時代には、「何」が動詞の後ろに留まることがありました。
方法を問う「奈何」

動詞「奈」(V)は、第1目的語(O1)と第2目的語(O2)をとり、「何」はO2です。漢文では、二重目的語をとる動詞でも、目的語を省略することができます。
「奈何」は、O1が省略されている場合の表記で、構造は「V-O2」となります。第1目的語ではない疑問詞は、移動しません。
「奈 – 目的語 – 何」は、O1を記述した場合の表記です。構造は「奈(V)-O1-何(O2)」となります。
まとめ
状態を問う「何如」「如何」、方法を問う「奈何」「奈 – 目的語 – 何」の構造をまとめると、以下のようになります。漢文句法で述べられている事象も、全て納得がいきます。

