漢文の文構造を理解しようとすると、中国語文法の知識が必要になってしまい、なかなか大変です。一方で、生成文法は言語によらない文法なので、日本語、英語、中国語を共通の方法で分析することができます。生成文法の分析結果を利用すれば、日本語文法、英語文法の知識によって漢文の文構造を理解することができます。
ここでは、「何元建 著 山口直人 訳 現代中国語生成文法」を参考にして、漢文の文構造の特徴を紹介します。
主述構造の前後の要素
「文は主語述語で構成される」と説明されることが多いと思いますが、主述構造の前後にもいくつかの要素が存在します。英語のifやthat、疑問形を表すための主語の前の助動詞などです。生成文法では、これらを「補文標識」と呼んでいます。(「生成文法の知見(1)」)
漢文の文構造を説明するために、ここでは節を作るものを「標識(節)」、疑問形を作るものを「標識(疑問)」と表すことにします。
主述構造の前に存在するもう一つの要素として「主題」があります。「主題」は、「象は鼻が長い。」の「象は」のことで、「~に関しては」という意味になります。
漢文・日本語・英語の比較
漢文、日本語、英語での主述構造の前後の要素をまとめると次の表のようになります。表中のSは主語、Pは述語を表します。

漢文の標識(節)、標識(疑問)には、次のようなものがあります。
標識(節):若(もシ)、雖(いへどモ)
標識(疑問):乎(か・や)
日本語の標識(節)、標識(疑問)には、次のようなものがあります。
標識(節):~と、~ば
標識(疑問):か
標識(節)、標識(疑問)は、日本語では文末に置かれ、英語では文頭に置かれます。これに対し、漢文では標識(節)は文頭、または述語の前に置かれ、標識(疑問)は文末に置かれます。
「主題」は、日本語と漢文に共通する要素です。「象は鼻が長い。」を漢文で書くと
象、鼻長。 (象、鼻長し。)
となります。
動詞の前後の要素
漢文でよく使われるのは、目的語を一つとる動詞文です。目的語は動詞の後ろに置かれるのでSVOの構造となります。
動詞の前後に置かれる要素としては、「副詞」「助動詞」「否定」「前置詞句」があります。これらの要素の位置をまとめると以下のようになります。

例)
副詞:固(もとヨリ)、将(まさニ…トス)
助動詞:可(べシ)、能(よク)
否定:不(ず)
前置詞:於(場所、対象など)、以(手段、理由など)
副詞が動詞の前に置かれる点は日本語と同じです。助動詞と否定が動詞の前に置かれる点は英語に似ていると言えます。前置詞句が動詞の前にも後にも置かれる点は、漢文特有のものと言えるでしょう。
まとめ
漢文の文構造を調べると、主述構造の前後の要素には日本語に似た特徴があり、動詞の前後の要素には英語に似た特徴があります。文構造の視点で見ると、漢文は日本語と英語の中間に位置するように思われます。

